2026年5月施行:中小企業の資金調達を変える「企業価値担保権」とは?
2026年5月28日更新
本年5月より、新たな担保制度である「企業価値担保権」が創設されます。これまで企業の融資における担保といえば、不動産や有価証券、あるいは経営者個人の保証(個人保証)が一般的でした。しかし、今回の新制度は、目に見える資産だけでなく、企業の「稼ぐ力」そのものを担保にするという、これまでの常識を覆す仕組みです。
- なぜ新制度が必要なのか?
日本の多くの中小企業は、優れた技術力や独自のノウハウ、顧客との強い信頼関係といった「無形の資産」を持っています。しかし、これらは従来の不動産担保融資の枠組みでは十分に評価されにくいのが実態でした。
また、融資を受ける際の「経営者保証」が、思い切った事業展開やスムーズな事業承継を阻害しているという指摘も根強くありました。新制度は、こうした「不動産や個人保証に過度に依存した融資慣行」から脱却し、事業の将来性や可能性を重視した資金調達を後押しすることを目的としています。 - 「企業価値担保権」の3つの特徴
この制度の最大の特徴は、以下の3点に集約されます。事業全体を丸ごと担保に 不動産や設備といった個別の資産だけでなく、ノウハウ、顧客データ、ブランド力、さらには将来生み出されるキャッシュフローまでを含めた「事業価値(エンタープライズ・バリュー)」を包括的に担保の対象とします。 信託を活用した仕組み この担保権は、銀行などの金融機関が「信託会社等(信託受託者)」を通じて設定します。これにより、複数の金融機関が関わる協調融資(シンジケート・ローン)などでも、一元的な管理が可能になります。 事業継続を前提とした制度設計 万が一、返済が困難になった場合でも、すぐに資産をバラバラにして切り売りするのではなく、事業全体を維持したまま譲渡(事業譲渡等)を行い、事業の価値を損なわずに債権回収や再建を目指します。 - 登記実務の特異性:商業登記と不動産登記の融合
登記制度においても、これまでの実務常識とは異なる運用が始まります。本担保権は、商業登記記録に新設される「企業価値担保権区」に記録されます。特筆すべきは以下の2点です。対抗要件の先後関係 不動産登記と商業登記は別体系ですが、配当時の優劣は両登記の先後で決まります(法18条)。同日に登記された場合の優先順位など、今後の運用が注視されるポイントです。 不動産登記法の準用 商業登記でありながら不動産登記法の規定が幅広く準用されます(法223条)。共同申請や登記原因証明情報の提供、さらには「登記識別情報」の発行が行われるなど、従来の商業登記実務とは一線を画す内容となっています。