老朽化した賃貸アパートの取り壊しと立退き
2026年1月14日更新
Q 私は賃貸アパートを所有しているのですが、老朽化してきたため、取り壊そうと思っています。しかしまだ、賃借人が4人居住しています。立ち退いてもらうことはできますか?一般的にどのような事情があれば立ち退いてもらえるのでしょうか?
A 賃貸アパートの老朽化を理由に建物を取り壊したいと考える大家さんは少なくありません。しかし、現に賃借人が居住している場合、貸主の都合だけで一方的に立退きを求めることはできません。日本の法律では、居住用建物の賃借人は手厚く保護されており、立退きには厳格な要件が設けられています。
賃貸借契約が期間満了を迎える場合であっても、貸主が更新を拒絶するには「正当事由」が必要です。また、期間の定めがない賃貸借契約を解約する場合も、同様に正当事由がなければ解約は認められません。この正当事由の有無は、単一の事情で機械的に判断されるのではなく、個別具体的な事情を踏まえて総合的に判断されます。
具体的には、
①建物の老朽化の程度、
②耐震性や安全性に問題があるかどうか、
③貸主が建物や土地を使用する必要性、
④賃借人がその建物に住み続ける必要性、
⑤これまでの賃貸借関係の経緯や居住年数、
⑥立退料の提供の有無
などが判断要素となります。裁判例においても、単に「建物が古い」「建て替えたい」といった事情だけでは、正当事由としては不十分と判断されるケースが多いのが実務の実情です。
もっとも、建物の老朽化が著しく、耐震基準を満たしていない、設備の故障が頻発している、あるいは倒壊のおそれがあるといった事情があれば、貸主側に有利な事情として評価されます。特に、行政から是正指導や改善命令を受けている場合や、建築士等の専門家による危険性の指摘がある場合には、客観的資料として正当事由を裏付ける重要な要素となります。
一方で、賃借人側の事情も慎重に考慮されます。高齢者や長期間居住している方、近隣での生活基盤が確立している方については、立退きによる生活への影響が大きいと判断されやすくなります。そのため、貸主の事情が一定程度認められる場合であっても、直ちに無条件で立退きが認められるわけではありません。
実務上は、まず建物の劣化状況について専門家の調査報告書を取得し、その内容を踏まえて賃借人に丁寧な説明を行うことが重要です。その上で、十分な協議期間を設け、書面での通知や交渉経過を記録として残しておくことが、後日の紛争防止につながります。
さらに、多くの場合は、立退料の支払いを前提に賃借人との合意解約を目指すことになります。立退料の金額に明確な基準はありませんが、引越費用、新居の初期費用、居住年数、家賃額などを考慮し、賃借人の不利益を補填する趣旨で算定されます。適切な立退料の提示は、正当事由を補強する重要な事情となり、円満解決につながる可能性を高めます。
このように、老朽化を理由とする立退きには、法的にも実務的にも慎重な対応が求められます。感情的な対立や長期紛争を避けるためにも、初期段階から専門家の助言を得ながら進めることが、結果として時間的・経済的負担の軽減につながるといえるでしょう。