遺産が使い込まれていた?!
2024年8月9日更新
Q 母が亡くなり、父はすでに他界しているので、相続人は兄と私の2人です。
私は結婚を機に実家を離れており、母は晩年認知症が進み施設に入っていましが、母のお金のことはすべて近くに住む兄が管理していました。
母は父から相続した預金が数千万円あったのですが、兄から聞く残高は数十万円とのことです。
兄はギャンブルが好きで、妻ともそれが原因で離婚をしており、母のお金を使い込んでいたのではないかと思うのですが、どうしたらいいでしょうか?
亡くなった方の預金を長男が使い込んだ場合、相続人全員の間で合意ができればその分も遺産分割の対象とすることができます。しかし、合意ができなければ、遺産分割とは別に、長女が長男に対して、不当利得返還請求または損害賠償請求を行うことになります。
解説
使い込んだお金の返還を裁判で争う場合は?
使い込みの時期が相続開始の前か後かによって、次のように請求権が変わってきます。
①相続開始前の使い込み
まず、母親が長男に対して、母親が亡くなる前に引き出された預金と同額の不当利得返還請求権ないし不法行為の損害賠償請求権を取得します。そして、相続開始により、長女が自分の法定相続分に応じて分割されたその債権(請求権)を取得することになります。
②相続開始後の使い込み
令和元年6月30日までに発生した相続については、不当利得返還請求ないし、不法行為の損害賠償請求することになっていました。しかし、不当利得返還請求を別途起こすとなると、使い込みをされた相続人にとっては大きな負担となります。 そこで、相続法の改正があり、令和元年7月1日以降発生した相続については、遺産の使い込みが発覚した事案について、使い込んだ相続人以外の相続人全員の同意があれば、使い込んだ相続人の同意がなくても、使い込み分も相続財産に持ち戻して遺産分割をすることが認められるようになりました。
使い込みを取り戻すための条件
①証拠を揃えている
使い込み返還請求では、使い込まれた金額を特定することはもちろんのこと、使い込んだ事実に対する証拠の有無がきわめて重要です。
長女は、使い込んだ事実が納得できない、許せないと思っているのかもしれませんが、長男からは「そもそもお金を引き出していない」「母親に頼まれて引き出したもので全額を母に渡した」「母親に代わって引き出し、全額を母親のために使っている」などの反論が予想されます。
それぞれの主張ごとに、預貯金・有価証券の取引明細、預貯金の振込伝票・委任状、医師の診断書、カルテ要介護認定書、介護記録医療費、介護費用・葬儀代の領収書などが証拠としてみなされます。
②時効の期限内である
不当利得返還請求には時効があり、「使い込みを行ったときから10年」「使い込みを知ったときから5年」のいずれかが過ぎたら権利が消滅してしまいます。
時効が過ぎてしまわないように、相続が開始されたらなるべく早めに財産調査に取り掛かりましょう。
③相手が資産を持っている
使い込みが認められて法的に返還請求が行い得るとしても、相手に資産がなければ遺産を取り戻すのは現実的に困難です。返還が滞った場合、公正証書(執行認諾文言付)、判決書などがあれば強制執行(差し押さえ)を行うこともできますが、それでも全額回収までは難しいケースがあります。
このように使い込みが認められても全額取り戻せるとは限りません。よって、使い込みに気づいた時点で預貯金口座を凍結させるなど、被害を最小限に食い止めることが重要です